象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
■優秀なSF作家が島根に居る。彼の名は飛浩隆。1960年生まれ。近未来SF「夏の虫」で94年の自治労四十周年記念懸賞小説最優秀賞受賞。現在自治労文芸幹事でもある(実は私も四国地連の自治労文芸幹事なので飛氏と面識がある)。氏は、商業誌の世界では80年代にプロ・デビューし『SFマガジン』に中短編を発表してきたが93年の作品を最後に沈黙。書き下ろし作品『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』(早川書房、02)が、いきなり2003年度の日本SF大賞候補作となり関係者の度肝を抜いた。
■今回紹介する『象(かたど)られた力』(ハヤカワ文庫)は中短編集。星を滅ぼすほどの力を秘めた文様・図像の謎を追う表題作、宇宙を折りたたむことで超光速を実現したため邪悪な空間世界を招来させてしまう「呪界のほとり」等、4編を収録。目くるめく読書体験が味わえる。芳醇な想像力、硬質緻密な文章、斬新なアイディア。極上のSF世界がここにある
サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ
2007年に日本で開かれた国際的なSF大会、Nippon2007の中で開催されたシンポジウム企画「サイエンスとサイエンスフィクションの最前線、そして未来へ!」の講演録が収録されている。
主にロボット研究、AI研究の発表だが、最先端の研究内容に触れられ、興味深い。また、それプラス、そのシンポジウムに参加したSF作家たちの短編小説も収録されている。
収録されている作家は、瀬名秀明、円城塔、飛浩隆、堀晃、山田正紀と新旧、日本を代表するSF作家たちだ。
特に飛浩隆と瀬名秀明の小説はとてもいい。
それを読めただけでも、この本を買った甲斐があった。
人間の想像力とその文学的な表現、それこそがSFの命だ。
ラギッド・ガール 廃園の天使 2 (ハヤカワ文庫 JA ト 5-3) (ハヤカワ文庫JA)
『グラン・ヴァカンス』に続く中短編集。三部作第二部。
前作では物語設定上、SF的要素を極力廃した語り口であったが
本作ではその呪縛の鎖を、力技で解き放つかのように
華麗な筆致で、鮮やかに「仮想世界」を描ききっている。
視覚的なきらびやかさだけではなく、
その手触りのリアリティも、まこと秀逸である。
しかし詩的に、そしてグロテスクなだけではなく、
ラストを飾る中篇「蜘蛛(ちちゅう)の王」の
疾走感溢るる跳躍の描写は、こんなこともできるのかと
舌を巻く出来である。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
日本語がこんなに表現力豊かな言葉だったというのを初めて認識。
優しくて残酷・美しくてグロテスクなどの相反するイメージの奔流に圧倒されてしまい、読み終えてしばらくは頭がクラクラして他のことを何も考えられませんでした。
こんなモノを書く人の頭の中を割ってのぞいてみたい・・というのは思い付く最大級の褒め言葉デス。
NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫 お 20-1 書き下ろし日本SFコレクション)
本アンソロジーを作ったいきさつについて、責任編集者・大森 望(のぞみ)、かく語りき。
<SFがこれだけ浸透した現在、本格SFの短編が定期的に載る媒体がもう少しあってもいいんじゃないですか。だれもつくらないなら自分でつくってしまえ──ということで立ち上げたのがこのシリーズ。(中略)編者である大森がいきなりメールまたは口頭で依頼し(一部、自薦・他薦あり)、届いた原稿を読んで勝手な注文をつけ(大幅な改稿はもちろん、最初の作品をボツにして別の作品を送ってもらったケースもある)、最終的に揃ったのが、ここに収められた十一編。> 「序」 p.5〜6より
宇宙を行く無人探査機のモチーフ(『スターシップ (新潮文庫―宇宙SFコレクション)』所収のイングリス「夜のオデッセイ」みたいな、ああいうの)に、タイムトラベル・ロマンス風味の邂逅とをブレンドさせて、胸熱くなる小品に仕立てた、藤田雅矢の「エンゼルフレンチ」。
月面で起きた最初の殺人事件か?! 小松左京ちっくな読みごたえもあり、本格ミステリとしてもよく出来ていて読ませる、山本 弘の「七歩跳んだ男」。
ぶぶっと噴き出すアホらしさも、ここまで大真面目に、かつ、手塚治虫をからめて壮大にやられると、もはや、わくわくするしかなかった、田中啓文(ひろふみ)の「ガラスの地球を救え!」。
私には全然わけ分からん作品もいくつかあったなかで、「これは、面白いなあ。読んだ甲斐があったなあ。」と気に入った作品は、この三つでした。
巻末の「編集後記」に、<今後は、その新城カズマ氏を筆頭に、山田正紀、神林長平、恩田陸、津原泰水、西崎憲、岸本佐知子、東浩紀、曽根圭介、法月綸太郎、伊坂幸太郎など各氏が登場予定(交渉中/三巻以降含む)。ご期待ください。>とあって、いやあ、この作家のラインナップの魅力的なこと。シリーズ第二巻以降も、思いっきり期待したいっ!