TPP亡国論 (集英社新書)
著者はもともと『自由貿易の罠』(青土社)という本を書いているぐらいなので、「自由貿易」そのものに批判的であり、本書中でもその論拠が述べられている。しかしTPPに関しては、そんな原則的な立場をうんぬんする以前の問題であって、そもそも自由貿易の推進案としてもデキが悪すぎるので、問答無用で却下すべしというのが本書の見解だ。以下にその主張を要約しよう。
TPP参加賛成派は、TPPに乗り遅れると「世界の孤児」になってしまうので、さっさと参加して「開国」せよと言っている。しかしそもそも今の日本は、「鎖国」と言われるような極端な保護主義と採っているわけではない。全品目平均の関税率は韓国より遥かに低く、アメリカよりも低い。農産物に限定すると、アメリカよりは高いが、韓国より遥かに低く、さらにEUよりも低い。そしてもちろんWTOに加盟しているし、インドやASEANなど12の国・地域とすでにFTAやEPAを締結しており、さらに数ヵ国と調整中だ。これのどこが「鎖国」だと言うのか?
逆に、TPP参加が「開国」に当たるかどうかも怪しい。参加国を見るとアメリカ以外は小国ばかりであって、中国も韓国も、もちろんEUも参加しないのがTPPだ。これに参加しなかったら「世界の孤児になる」などというのは誇張が過ぎるというものだ。
TPP参加で関税を撤廃すれば日本からの輸出が増えてハッピーというのもおかしい。輸出先は市場規模からして事実上アメリカしかないが、関税はすでにかなり低くなっており、貿易量を左右する最も重要な要素は「為替」である。そしてアメリカは大々的な金融緩和・ドル安戦略を採っているので、関税撤廃の恩恵など簡単に吹き飛んでしまう。しかも日本のメーカーは現地生産を相当程度進めているので、仮にアメリカ向けの販売が増えても日本の雇用は増えないのだ。
TPP参加の「メリット」がウソであるのに加え、「デメリット」も存在する。まず、関税撤廃による輸入価格の低下や国際的な価格競争に巻き込まれることによって、現下の「デフレ」が一層進行してしまう。そしてすでに関税率が十分低いのにさらに「開国します」などと宣言すれば、非関税障壁も撤廃せよといった様々な外圧を受けかねないし、今後のWTO交渉や個別FTA・EPA交渉でも例外規定を主張するのが難しくなり、交渉の自由度が減ってしまう。TPPそのものにも、日本の味方になりそうな参加国がない。要するに、交渉戦略上めちゃくちゃ「損」な枠組みなのである。
著者は基本的に、経常収支の極端な赤字国と黒字国が存在し続ける「グローバルインバランス」は経済危機のリスクを高めるので是正すべきだと考えていて、アメリカが輸出を促進するのは当然だし、日本は内需を拡大して輸入を増やして国際経済に貢献すべきだという。
ただし、輸入を増やすべきだからといって、今TPPに参加して自由化すればいいかというとそうではない。著者が望ましいとする順序は、「保護主義+財政出動による内需拡大」→「デフレ脱却・経済成長」→「輸入拡大・経常収支黒字削減」→「世界経済の安定に貢献」というものだ。歴史的にも、自由貿易が経済を成長させるのではなく、保護主義による内需拡大・経済成長が輸入をむしろ増加させるというパターンが多い。
要するに、TPPに断固反対するからといってそれが「鎖国」主義を意味するのではない。本書で述べられているのは、そもそも「開国か?鎖国か?」などという二分法がおかしいのであって、開き方と閉じ方を常に調整して、国益の確保と世界経済への貢献のために多くの選択肢を確保しておこうという程度の穏当な見解だ。「平成の開国」「世界の孤児になる」といった意味不明のスローガンを叫んで、出来合いの、自分たちに不利な枠組みに乗っかろうという民主党の安易すぎるプランを、受け入れるわけにはいかないのである。
官僚の責任 (PHP新書)
冒頭に関心の高い東日本大震災後の官僚・政治家の動きやその考え方、原発問題の背景が記されていたため、一気に惹き込まれ読了した。
現在の官僚制度は、個々の優秀な官僚を腐らせ、大局感を奪ってしまう制度であるということが理解できた。
著者の書き振りはやや過激な部分が目立つがそれだけ危機感を募らせているという意識が伝わってくる。
また、官僚を活かし切れなかった民主党の責任、震災後の理想とかけ離れた場当たり的な対応が強く印象付けられ、早期に政権を(少なくともこの国のリーダーを)変えなければならないという危機感が植え付けられた気がする。
ただ、とかくマスコミに批判されがちな官僚制も優秀な人材が少なくない事は事実。
従って、その人材を活かせるような制度の構築が急務であると思った。
こうした課題には国民の充分な関心とチェックが必要になることは言うまでもない。
強くお薦めできる新書である。
日本中枢の崩壊
日本の中枢である政治経済行政がここまで危機状態にあると感じていた国民がどれほどいるのでしょうか。テレビや雑誌でときどき見かけていた経済産業省現役官僚古賀茂明氏が、なぜ安泰であったはずのエリート人生をかけてまで、国民に内部事情を知らしめているのかよくわかりませんでした。答えはこの本の中にあります。古賀氏は官僚の中では異端児なのでしょう。でも正義を知っている人間が官僚にもいるというのはわたしたちに希望を与えてくれます。本にも書いてありますが、日本を立て直すには残された時間がそんなにないことを知っておくべきでしょう。わたしたちひとりひとりが改革に参加していく必要性を確信しました。大新聞、テレビから得られる情報に惑わされることなく判断できる力を養うのにとても参考になる一冊だと思います。