雪の練習生
私もそうでしたが、ベルリン動物園の大スターだった北極熊クヌートに夢中になった人は多いと思います。なんであんなに可愛いのか、その裏に隠された秘密を多和田さんがシュールに解き明かしてくれています。
エクソフォニー――母語の外へ出る旅 (岩波現代文庫)
多くの読者は、この本を読んで多和田葉子の豊かな言語感覚に嫉妬せざるをえないだろう。彼女は常人では届かぬ言語宇宙のかなたに行ってしまっている。そして、読者に言語の持つ新たな可能性を手際よくみせてくれる。ほとんどの言語学者は言語を死物のように扱いただ分析するだけなのだが、彼らの書く愚にもつかぬ本をいくら集めてもこの『エクソフォニ-』には及ばない。
多和田葉子という希有な水先案内人とともに言語宇宙を旅しようではないか。
尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)
大好きな多和田さんの新刊。味わいはキュートでおいしい!のに、決して軽くなく重厚な作りになっている。本当に不思議。登場人物を一読では覚えられないため、何度も前に戻り確認しながら読むのだけれど、それが苦痛にならない。読み心地が良すぎて、二回読みました。多和田さん、不思議です。。。本の装丁もステキ。
飛魂 (講談社文芸文庫)
中国奥地を彷彿させる幻想的な風景、素晴しい存在かと思わせて実はそうでもない宿舎の先生、「虎」という文字と交わる主人公、なぜか僕は多和田葉子の不条理を素直に受け入れてしまう。指姫、梨水、登場人物の名前はどう読むかわからないが不条理世界に心酔する要因となっている。あの世界で梨水のように生きたい。今でもそう思う。またあの世界を想像するのが心地よい。安らぎをもらい、心の支えになっていると言っても過言ではない。
絶版になっているため、先日区立図書館から借りて全ページコピーした。一般的には多和田葉子はなかなか受け入れられないのはわかっている。だからこそ自己満足でもいい、僕にとって値段の付けられない宝物だ。僕は一人淋しく、でも楽しく、何度でも「飛魂」を読み返す。
雲をつかむ話
本当に雲をつかむような話だ。この作家の作品は、感覚的にわかるので、好きです。ストーリーは、あるようであって、ないようであって、やはり、あるらしい。現実なのか、夢なのか、自分なのか、他人なのか、今なのか、過去なのか、ドイツのどこにいるのか・・・。そんな感覚が好きだ。
(引用)
目の前に男の顔がある。肌の色はくすんでいるが、瞳の中では滝に打たれる石のように飛沫が激しく動いている。わたしと目が合うと、幼友達でも見つけたようにその表情がパッと開いた。初対面である。誰かに似た顔。思い出せない。乾いて紅色に燃える唇が開いて、息といっしょに、ぼっぼっと音節をぶつけてくる。口のまわり、目尻、額の皺たちの活動も活発で、小刻みに小さな波が岸に打ち寄せてはまた引いていく。(引用終わり)