宮部みゆき『あんじゅう』PV(中央公論新社)
宮部みゆき『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』(2010年7月25日、中央公論新社刊)のプロモーション映像です。制作:京極夏彦、ナレーション:宮部みゆきという贅沢なPVをどうぞ。
最近ではすっかり世話物・人情物ミステリーの世界に安住してしまった宮部さんで,それはそれで優れたストーリーテラーぶりを発揮しているのだろうが,もっと真摯に時代と切り結んでいたころもあったのであり,『理由』はそんなかつての宮部さんが,時代とがぶり四つに取り組んだ力作。宮部作品のなかでは,乾いた硬質の印象の作品で,あえて読者にカタルシスを与えず,経済大国のなかで踏みつけられたような人びとの世界を丁寧に案内した挙げ句,クエスチョンマークのコンクリート砂漠に突き放す。
そんな作品が,見事に大林マジックによって,叙情的な邦画の佳作に仕上がった。繊細そうな青年たちはみなやさしく,髪の長い少女たちは,ちょっとレトロな雰囲気の服をきて,懐かしいような日本語で会話する。みなほんとうにいい子たちばかりで,しかもみなとても可愛い。
東京の下町が,なんだか尾道のように見えてくる。
愛おしい故郷のようにフィルムに収められた東京。
殺人事件に多かれ少なかれかかわった大勢の登場人物たちが,ほんの短い時間に,インタビューに答えるように登場するのだが,それらはひとつひとつがバラエティーに富んだ,連作掌編映画みたいで,見る者を飽きさせない。
個人的には石橋蓮次と立川談志(ほんの数秒の登場)の演技と存在感がピカイチに思え,あまりの良さに,嬉しくて笑ってしまった。
時代背景や社会的背景や人間心理がどうとかは,主要なテーマではなく,ある時代のある場所をある事件に沿って切り取ってみて,そこに生きる人びとをせいいっぱい慈しんだ映画という気がする。