アイズ ワイド シャット [DVD]
スタンリー・キューブリック監督は20世紀最高の映画監督であると思ってやまない私だが、この映画だけは遺作にして欲しくなかった。せめて、企画されていた「A.I.」の演出で有終の美を飾って欲しかった。
夫婦、しかもトム・クルーズとニコール・キッドマンの「夫婦生活」のすれ違いというテーマは、キューブリック監督には小さすぎた。
セレブの社交界の乱交パーティの描写も、AVが氾濫している昨今、大して衝撃を受けない。「時計じかけのオレンジ」のレイプシーンのほうが、よほどショッキングだった。乱交シーンに、「バリー・リンドン」の絵画のような映像美を堪能することもできない。乱交パーティ運営側のバックには、マフィアがいるのは、どこの国でも同じで、秘密を守れない会員には彼らの魔の手が迫るのも容易に想像がつく展開だ。怪しい男につきまとわれることだって、カルトの嫌がらせが多い昨今、さしたる恐怖でもない。
私は、キューブリック監督作品のDVDを全部揃えるために、この作品のDVDも購入はしたが、あまり観ていない。
アイズ・ワイド・シャット オリジナル・サウンドトラック
キューブリックの遺作となったアイズワイドシャットのサントラ盤、この映画でトムはキューブリックに鍛えられたために時間を浪費し、トムは1億円を損したと揶揄されたが、この映画以降のトムの出演する映画では、演技の重厚感が以前よりも増したように感じた。トムにとってはターニングポイントとなった映画だと思う。このサントラでは、極度の緊張感をイメージさせる音楽や、宗教儀式的な音楽、4曲目のようなゆったりジャズ、心の不安を表現したような音楽、クールタッチなジャズなどが収録されている。映画の中のトムの微妙な心象をとらえる絶妙なこのトラック群が大好きで、気持ちが追い詰められた時や、ハイな状態の時に聞くと、非常に心が高揚するので、僕にとっては心理的な宝のようなサントラ盤です。時計仕掛けのオレンジやフルメタルジャケットも好きですが、「2001年宇宙の旅」でボウマン船長がHALのコンピュータを破壊するときに見えた8トラックカセットテープがとてもチープで好きです。
アイズワイドシャット (スクリーンプレイ・シリーズ―名作映画完全セリフ集)
映画のセリフなので普段ネィティブガ使う表現が満載です。注釈に細かく英語表現の解説が載っていて分かりやすいです。セリフ集と言っても、普通の小説のように読めます。
アイズワイドシャットは、さほど難しくない会話ですし、構成が見易いので購入して良かったと久しぶりに思えた1冊です。
映画を観ながらリスニングの勉強も出来て、楽しみながら学習できます。レベル的には中級~の方にお薦めです。
日本フィル・プレイズ・シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー Part1~アラビアのロレンス(愛と冒険篇)~
1980年代以降、映像音楽の録音といえば、ジョン・ウィリアムズの指揮するボストン・ポップス・オーケストラとエリック・カンゼルの指揮するシンシナティ・ポップス・オーケストラによるものが、質的に突出したものとして存在してきた。
しかし、前者に関しては、オリジナル・サウンドトラックの演奏と比較すると、しばしば、演奏に生気を欠くことが多く、また、後者に関しては、近年になり、編曲に劣悪なものが増え、指揮者も精彩を欠くようになり、徐々にこのジャンル自体が魅力を失うようになった。
しかし、今世紀にはいり、日本フィルハーモニー交響楽団によってたてつづけに録音された6枚のCDは、上記の両横綱の録音と比較しても遜色のない、高水準の内容を誇るものである。
沼尻 竜典と竹本 泰蔵という有能な指揮者の的確な演出のもと、20世紀の古典ともいえるハリウッドの代表的な作曲家の傑作の数々が実に見事に奏でられている。
これらの演奏の特徴は、あえていえば、オリジナルの魅力を過剰な演出をくわえることなくありのままに表現していることにあるといえるだろう。
いずれの作品も、世界中に配給される映像作品の付随音楽として作曲されているために、もともと高度の娯楽性と表現性をそなえた作品である。
ここに収録された演奏は、それらの作品が堅実な職人性のうえに自然体に演奏されるだけで、視聴者に無上の歓びをあたえてくれることを明確に示していると思う。
いずれにしても、20世紀後半、正当な評価をあたえられることなく、ハリウッドの片隅において高水準の管弦楽曲を創造しつづけた数々の現代作曲家の労作をこうしてまとめて鑑賞してみると、あらためてそれらが実に良質な作品であることに驚嘆させられる。
そこには、紛れもなく、最高の職人性と大衆性が見事な結合を果たしているのである。
日本フィルハーモニー交響楽団による6枚のCDには、そうした身近なところに存在していた現代芸術のひとつの奇跡が封じ込められている。